Knights of the ChaliceというインディーズRPGについて。
Dungeons & Dragons 3.5版ルールにおおむね基づいたパーティ制RPGで、戦闘はターン制です。発売は2009年。その年のGameBanshee最優秀インディーズRPG賞を受賞していますから、おそらく有名なゲームなんでしょう。£14.95。ひさびさ再プレイしたところ、やっぱり面白かったので感想を書きます。
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ドラゴン退治に理由などいらない。リアルタイムアクションと派手な演出はもっといらない。ヘルスポーションですら必要ない。AIが本気で殺しにくればただそれでいい。という方を対象に作られたようですが、該当しない私でも心底楽しかったです。 |
このゲーム、もちろんTeudogarとは何の関係もありません。でも知った時期がかぶっていたので、なぜだか比べてしまいます。共通点があると思います。どちらもグラフィックスは、Ultima6、7あたりの、今見ると奇妙な立体表現をわざわざ踏襲。ターン制の戦闘。そして、幼少期からRPGを遊んできた30歳前後のマニアな方が、チームを組まずにたったひとりで(アーティストの協力はあっても)、時間をかけ作り上げた初の長編RPG。大手ダウンロード販売サイトに頼らず公式のみの販売。主張の激しい極端なゲーム内容ながら、やけに作りが丁寧なのも共通しています。ただ肝心のやろうとしていることは180度違いまして、そこが面白いなと思いました。
Teudogarは、プレイヤーに古代ゲルマン人らしい行動を取らせるため、戦闘・アイテム・成長に頭が行き過ぎないような作りになっていたんじゃないでしょうか。経験値を使わず、アクションに応じて勝手にスキルが伸びる方式だったり、キャラクターシートの数値が全部隠されていたり、戦闘の機会も、勝って得るものも少なかったり。そういうことより、考証にもとづく細かいリアリティやNPCの生活感、台詞から浮かびあがる歴史背景を楽しんでよ、との意図が強く感じられ、いかにも歴史好きな人のつくったRPGだったと思います。
一方、Knights of the Chaliceを制作されたPierre Begueさん(イギリス在住)は、そういう方向性のRPGにはまるで興味がない人みたいです。フォーラムでの発言、KotCの
デザイナーズノート、
インタビュー、
RPGレビューを見ると。
- ターン制の戦闘システム、特にD&Dのそれが好きだ
- 序盤からハードな戦闘の繰り返しでなければつまらない
- キャラクターの外見なんか、装備の反映も含めてどうでもいい
- パーティメンバー同士の会話、交流イベントも不要
- RPGをリアルにしても楽しくはならない、数値は隠さず全部見せるべき
- スケーリング(プレイヤーが成長すると敵も強くなる)はダメ
- 取ったアクションに応じてスキルが成長するシステムも嫌い
- 3D部分に力を入れれば入れるほど、ゲームはつまらなくなる
- ひとりで冒険するのより、パーティ制の方がよっぽど面白い
最近流行の一人称/三人称視点アクションRPGなんぞ論外。RPGの楽しさはハードで複雑なターン制戦闘であり、キャラクター成長である。グラフィックスはもちろんのこと、ストーリーや世界設定だのは脇役に徹するべきだ。推測混じりで勝手にまとめてみました。
史上もっともストーリーの優れたPCRPGと言えば、よくPlanescape Tormentの名前が挙がりますが、Begueさんはそれすらも「退屈」と切り捨てています。Might & Magic 6、Daggerfall、Dungeon Masterなど一般的には名作扱いされそうなタイトルも、戦闘部分に不満があって好みではないとのこと。優れた作品には、DOS時代のSSI社によるAD&Dゲーム群、特に
Darksun Shatterd Lands、他には
Bird's Tale 2、最近では唯一The Temple of Elemental Evil。リアルタイム3Dで許せるゲームとしては、Ultima Underworldを挙げています。私がパソコンを持ってすらいなかった時代の、いわゆるオールドスクールなPCRPGを熱烈に愛されている方なんでしょう。
Knights of the Chaliceは、そういうBegueさんの好みを強烈に反映したゲームに仕上がっています。ファンタジーRPGの戦闘部分(もちろんパーティ制かつターン制)を、どれだけ面白く出来るかという点にはとんでもなく力が入っています。まずはD&D3.5版ベースの詳細な戦闘・魔法システムがあります。そのうえで、リソースが限られているなか、敵との連戦をどう切り抜けていくか。経験値とマジックアイテムで、最強のパーティを作り上げるにはどうするか。ほとんどストラテジーゲームかというぐらいそればっかり。
すべてのクエストはダンジョンでの戦闘なしに解決できません。凝ったストーリーを語ろうという色気も一切見せません。世界設定なんか超おざなりです。主人公の所属する騎士団、Knights of the Chaliceについて、「いい騎士団」以上の細部はほとんど語られず、敵は邪悪だから邪悪。舞台となるCrimson Coastも、名前以外に何の背景設定もありません。
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ワールドマップでいくつかの町を巡り、NPCからクエストを受けて、各地のダンジョン(手作り)に挑む。お話は一本道。セーブは戦闘時以外いつでも可。天候と昼夜の変化はあるが、時間の概念はない。 |
私はどちらかというと、Morrowindみたいな仮想世界放浪系や、ストーリー性の強いDragon AgeみたいなRPGが好きなので、Begueさんの硬派古強者すぎるRPG観にはあまりついていけません。それでも、このゲームは面白いです。すごく偏っていて、すごくよく出来ていると思います。一番近いのは、
The Temple of Elemental Evilでしょうか(Dark Sunに似せて作ったそうですが、未プレイなのでわかりません)。タクティカル要素の強いパーティ制ファンタジーRPGが好きな方には、またD&Dが好きな方には、たまらないゲームじゃないかと思います。
D&Dのルールを勝手に使っていいのか、それもシェアウェアで、という点。D&Dの権利を保持するWizards of the Coast社は、オープンゲームライセンスに基づく
オープンゲームコンテンツという形で、D&Dルール(3.5版、4版)の自由な使用を許可しているそうです。一定の決まりさえ守れば、誰でも金を払わず使えるということみたいです。
KotCのシステムは、オープンゲームコンテンツであるD&D3.5版ルールに、独自の改変を施したものです。改変とは、まずキャラ作成時に選べる種族が
人間、ハーフエルフ、Mul(ハーフドワーフ)しかありません。クラスも
ナイト、クレリック、メイジの3種類のみ(マルチクラスも不可)。Featはありますが、Skillはばっさりカット(CraftのみFeatとして残されています)。他に、近接攻撃のリーチ(届く範囲)が全部1マス、魔法を記憶する必要がない(代わりに一日の使用回数制限あり)などなど。削られた部分はたくさんあっても、残った部分については、D&D3.5版にほぼ準拠しているようです。
冒険を始めるにあたって、4人分キャラクターを作ります。決めるのは、名前、性別、種族、クラス、能力値、Feat(特技)、スペル、おまけで生い立ち。 3種族×3クラスのなかでも、有効な組み合わせはだいたい決まっているので、キャラクターメイクとパーティ構成における自由度は低めです。そこは欠点といえばそうかも。ただ、種族とクラスを絞ったからこそ、戦闘難易度をうまいこと調整できたというのもあると思います。
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キャラクターメイキング。外見は種族、クラス、性別から自動決定。ポートレイト選択はありません。戦闘ばっかりなので、アラインメントもほとんど意味を持ちません(ゲーム中の変化もなし)。 |
KotCの戦闘のどこがそんなに面白かったかと言いますと、まずベースとなっているD&D3.5版の戦闘システムそのものが、よく出来ているんだろうと思います。近接戦闘だけでも、奇襲時の棒立ち(Flat-footed)、突撃(Charge)、背後からの攻撃(Flanking)、包囲(Surrounded)、取っ組み合う(Grapple)、1マス突き飛ばす(Bull Rush)、機会攻撃(AOO)、それを避ける5 foot stepなど。遠距離戦闘では、矢のリロード、障害物によるカバー効果。魔法では、効果の様々なスペルが150種類以上も用意され、このスペルの詠唱には声だけでなく手の動きが必要だから、羽交い絞めされると使えない、でもあるFeatを取れば音声だけで唱えられるとか。ファンタジー小説・映画風の戦闘シーンが自然と目に浮かんでくる、細かくて面白いルールがたくさんあります。
そして敵AIがそのルールをフル活用してきます。魔法や特殊能力を巧みに使いこなし、せっかくかけた呪いはディスペルされ、眠らせた敵は同僚が叩き起こし、Webはファイアボールで焼き払われ。5 foot stepでナイトのAOOを回避しながら、メイジを羽交い絞めにして魔法を封じてきます。変な行動をする時もあるにはありますが、それにしてもかなりの賢さではないでしょうか。「AIには特に力を入れた」と言う通りの出来栄えだと思います。
それでも同じような戦闘の繰り返しでは飽きますが。40種類近いモンスターが、毎度微妙に異なるグループ構成、シチュエーション(大部屋、狭い通路、不意討ちなど)で現れます。おかげで戦闘ばかり延々と続くのに、不思議と苦痛になりませんでした。
もちろんすべての行為は、D&D同様、20面体サイコロを振って成否が判定されます(出目は全部ログに残ります)。
非常に詳細なヘルプ機能がついていますから、D&Dを知らない方でも支障なく遊べます。
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最初の戦闘。意外にも(?)親切なつくりで、攻撃時は命中率、魔法なら結果予測を事前に表示。また左上ログの数値をクリックすると、サイコロの目はいくつだったか、どんな修正値が加えられたかすべて確認できます。能力値やアーマークラスも、なぜその値になるのかクリックで一目瞭然。ヘルプ機能がとにかく充実しています。全コマンドにショートカットキーがあるのもありがたい。また、麻痺した敵をクリックすると自動的にCoup de Grace(とどめを刺す)を狙ったことにしてくれるなど、複雑なルールを快適に遊べるような工夫が凝らされています。 |
KotCは、なかなか難しいゲームだと思いました。理由は…
- 敵AIが賢い
- 戦闘前の能力アップができない
戦闘外で使えるスペルはごく限られています。わざと、だそうです。 - 開始位置を選べない
ほとんどの場合、敵の出現はスクリプトで行われます。一匹ずつ釣り出したり、有利な地形を選ぶ戦法が取れません。いきなり敵の群れのど真ん中から戦闘が始まることも頻繁です(不意討ち)。 - 逃げられない
戦闘が始まったら、勝つしかありません。例外としてワンダリングモンスターからは逃げられます。 - 同士討ち
矢や投射魔法が外れた場合、射線上の誰かに命中することもあります。壁役の頭越しに攻撃することが多い弓使いやメイジにとって厄介な問題。範囲魔法は言うまでもなく味方にも当たります。 - 状態異常の回復が難しい
キャンプですら消えないものも。 - 死の扱いが重い
4人しかいないので、ひとり倒れると極端につらくなるのはもちろん、蘇生時に経験値がレベル初期値へとリセットされてしまいます。ペナルティなしでの蘇生は、クレリックが最上位魔法のTrue Resurrectionを覚えるまで待たなくてはなりません。 - 魔法は回数制
レベル3、INT18のメイジは、1日に1レベルスペル3回、2レベルスペル2回しか使えない。回数はキャンプで回復します。 - ポーションは存在しない
なんと、ありません。しかも…↓ - 神聖魔法を使えるのはクレリックのみ
スペルを封じ込めたスクロールやワンドは、もともとそのスペルを唱える能力があるキャラクターだけにしか使えません。つまりナイトやメイジが回復魔法を使うことは絶対にできないわけです。クレリックが倒れた瞬間、パーティの回復手段がなくなります。 - 好きにキャンプできない
キャンプさえすれば、魔法回数もHPも全回復するのに、作者の定めた場所でしか行えません(各ダンジョンに1~3ヵ所ぐらい)。 - 一度ダンジョンに入ると、クリアまで街に戻れない
戻れる場合もありますが、たいていは入り口が崩れたりで閉じ込められます。 - 敵の自動レベル調整がない
間違えて身の丈にあわない高難度ダンジョンにさまよいこんだらおしまい。 - 店が少なく、在庫が補充されない
金にものを言わせ、強力なスクロールを買いまくるとかができません。 - 物が持てない
持てるのは、ひとり16個、パーティで64個まで(装備は除く)。アイテム倉庫もありません。
「お手軽プレイ」ができるような余地はことごとく、これでもかというぐらいに潰されています。一度ダンジョンに入ったら、キャンプ可能ポイントを見つけ出すまで、クレリックの回復魔法のみが命綱。後のことも十二分に考え、HPや魔法回数をできる限り減らさずに戦う必要があります。
ハマリ状態が発生しすぎないように、救済措置もあります。対応するFeatを覚えたキャラクターは、戦闘中以外いつでもどこでも、
アイテムを作成できます。ただし作成時には、金と一緒に経験値を消費します。作ってばかりいると、そのキャラクターだけ成長が遅くなっていきます。作れるのは…
- スクロール、ワンド
習得スペルをスクロールに書ける/ワンドに封じ込められる。 - 武器、鎧
タイプ、材質、品質を好きに選べます。 - 武器、鎧にエンチャント効果を付与
強力なマジックアイテムを自由に作れます。
- アクセサリー
能力をアップする指輪など。
完成品の性能は、作り手のレベルとともに上がります。最終的には、ゲーム内に存在するほぼすべてのマジックアイテムを、プレイヤーの手で複製できるまでになります。材料も用意せずにダンジョンの廊下で鎧を作るだとか、まったくリアリティはありませんが、様々なエンチャント効果を組み合わせる作業が楽しかったので、そのうちつっこむのをやめました。
スクロール・ワンドをつくることで、魔法の使用回数制限は無視できます(経験値を代償に)。また、吸血鬼が出たけど銀の武器がないとか、敵が炎のブレスを吹いてくるのに誰も火炎耐性がないといった状況で、戦闘前に必要なアイテムを作ってしのぐことができます。できます、というより、そうやってなんとか勝っていけるバランスになっています(特に情報のない1周目は)。
かなり難しいんだけど、あらゆる手を総動員すれば乗り越えられる。そのバランス調整がうまいと思いました。敵が怖いからこそ、ラストまで緊張感が途切れません。キャラクターを成長させる喜びも実感できます。1レベルでは、4人がかりで虫一匹に手こずっていた哀れなパーティが、最大の20レベルともなれば神話級の殺戮マシン軍団に。もし物足りなければ、The Temple of Elemental Evil同様の
Ironmanモードも用意されています(ゲームオーバーでセーブデータ消失の鬼モード。私は挑戦する気すらおきませんが、クリアした人もいるそうです)。
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「ムハハハハ、私が悪いオークだ」。NPCは常に単刀直入、余計なことはしゃべらない。 |
上で書いたように、全体としてのストーリーはないも同然です。一応D&Dの古いサプリメント(Scourge of the Slave Lords と Against the Giants)から展開を拝借しているそうですが、戦闘の理由付け以上の深みはまったくありません。手抜きというより、狙ってのことなんでしょう。NPCが2度目には最初に言ったことの要約を話したり、ジャーナルのクエストまとめが詳細だったり、そういうところは丁寧です。
また、小さなイベントは豊富です。選んだ選択肢によって、その後の戦闘に多少有利不利が出たりもします。例えば、上の画像のようにどっちに味方するか?だとか、モンスター相手のレストランでふるまわれる食事を食べようか?とか。パズル的なイベントも、ごくわずかながらありました。
クリアまでのボリュームは、全クエストクリア、マップをすべて踏破するまで、55時間ぐらいかかりました。リトライ時間を除いてですので、実際はもっとかかっているでしょう。これはたぶんかなり遅い方で、早い人は30時間程度でもクリアできるらしいです。なんにしても、ボリュームはあると感じました。
未プレイの方がいらっしゃれば、本当におすすめです。インディーズRPGの傑作のひとつだと思っています。
デモがあります
デモのダウンロード 固定キャラで、デモ専用に作られたシナリオを遊べます。狭いマップにたくさんのイベントを詰め込んであるため、多少不自然になってしまっています。製品版ではこんなシーンはありません。また難易度はもうすこしマイルドです。