10/03: ハッキング関係の間違いを修正
時期を逸した感がありますが、感想を書きました。一言で言うと好きです。初回起動時の感動が過ぎ去ったあと、「これ簡単すぎないか?」と感じて一時気持ちが離れたんですけれど、中盤以降は再び釘付けになりました。
難易度Give me a challenge(ノーマルに相当)、照準や目的地マーカーなどはオフ、オブジェクトハイライトだけオンでプレイ。予約特典DLCは両方なし。クリアまでにかかった時間は35時間程度でした。
どんなゲームか
Deus Ex: Human Revolution(以下HR)は、2000年から続くDeus Exシリーズの3作目。外伝(と呼べるかどうかすら微妙な)Project Snowblindを含めれば4作目となります。
舞台は過去作よりずっと現代に近くなった2027年。Deus Exの世界が伝染病(Gray Deathではない)の大流行で壊滅的打撃を受けるほんの数年前のこと。オーグメンテーション――超高度サイボーグ技術による人体強化の普及にともない、人類はかつてない転換期を迎えていました。存在感を失う国家を尻目に、際限なく調子に乗る企業家達。オーグメンテーション推進派と拒絶派の対立がニュースを賑わせる一方、議論の外に置かれた貧民の嘆きを餌に、犯罪組織が勢力を伸ばしています。
警察をやめて途方にくれていた主人公Adam Jensenは、秀才の恋人の紹介で、大企業のセキュリティマネージャーの職にありつきます。癖のある社長や同僚に面食らい、恋人が指揮するラボの研究者たちは、何をしているのやらさっぱり。でも給料は警官時代と比べ物になりません。仕事にも贅沢にも慣れ、そろそろ俺も所帯をなんて夢想するJensenでしたが、幸せは長続きしませんでした。恋人との関係はやがて破局。ようやく心の整理がついたころ、今度は謎の集団が来社して……。
ジャンルはRPG要素を強く持つスニーキングアクション。全体のストーリーは決まっているものの、個々のマップにおいては自由に動けるのが特徴です。戦闘とステルスのどちらで警戒を突破するか、階段を使うかエレベーターか、またサイドミッションやNPCへの対応はどうするか、などなど。取った行動によって、その後の細部が多少変化します。
プレイにシリーズの知識はいりません。ただ、初代に登場する組織・人物の名があちこちに散りばめられていますから、知っていた方が楽しめる部分は増えるはず(予習するほどではないかも)。
Adam Jensen。元SWAT、現Sarif Industries社セキュリティマネージャー。
死の淵から全身機械仕掛けとなって蘇った彼には、決着をつけねばならない因縁があった。
口癖は "I never asked for this." 社内のあだ名は私物泥棒。34歳、独身。
世界とマップ
とにかく説得力ある未来世界を作り上げたい、という気迫を感じました。ミッションをつなぐハブとなる街は、看板や落書きで彩られ、用途のわからない倉庫や部屋が点在し、裏通りと下水道が広がっています。住人には境遇にあわせた膨大な台詞が仕込まれて、立ち話に耳を傾ければ世界設定を補足してくれます。新聞やメール類もたぶん初代ほどではないにしろ、Invisible Warよりずっと豊富です。
グラフィックスはノワールの黒とルネサンスの金とでまとめられ、そこに素晴らしい音楽が加わります。もう歩いているだけで楽しい。システム上の細かい不満を帳消しにしてくれるレベルでした。途中まで作っておきながらカットしたというロケーションも、今後なんらかの形で見せてくれたらいいんですが(インドやモントリオールとか)。
シリーズの特徴である攻略ルートの幅も健在です。ミッションの舞台となる施設への入り口は複数あって、内部ではダクトがあちこちをつなぎます。さらに強化状態によって様々な道が。ハッキングしてセキュリティシステムを止めたり、高所から飛び降りたり、箱を積み上げたり。
未来のシアトルを先取りするかのような、上海横沙島の階層都市。
成功者のための上層は、サイボーグ技術のシリコンバレーと呼ばれる。
下層では、何も知らない観光客に下品なネオンが一夜の夢を見せる。
裏通りではサイボーグの死体が腐臭を放ち、その手足を切って売る者がいる。
武器
登場するのはSMG、アサルトライフル、拳銃、スナイパーライフル、ショットガンに加えて、ロケットランチャー、標的を壁にピン止めするクロスボウ、障害物を貫くレーザーライフル、各種グレネード、地雷、スタンガンなど。それぞれ長所短所はありますが、使えない武器はありません。集めた改造パーツで強化しながら、お気に入りを終盤まで使い続けられます。逆に言うと、使い分けの必要性や強い武器を探す楽しみはあまりありません。
撃ったときの感触は、どれもしっくりきました。鋭い銃声に、リコイルと移動時の精度低下もあります。被弾した敵兵ののけぞり方、倒れ方も自然。武器のモデル、リロードアニメと音、アイアンサイト視点があって微妙にスウェイするあたりも好みです。照準オプションオンではアイアンサイトとレーザーサイトのありがたみが薄くなる気がしたので、オフで遊びました。
今回は会話を通した取引ではなく、専用のショップ画面が用意されています。
買えるのは、弾、グレネード、改造キット、回復アイテムなど。 戦闘
カバーに張り付いている間TPS、離れるとFPSという仕様は、慣れるまでしばらくかかりました。でも慣れてしまえば、カバーを使っているかどうかが即座にわかって便利です。敵の射撃は正確かつ強力で、体を晒せばあっけなく殺されます。自動回復が始まるまでには時間がかかり、無傷で戦闘離脱できるほど足が速くもありません。そこでカバーの利用が不可欠に。
敵兵士は、こちらが同じカバーにとどまっていると、援護射撃役と接近役とに分かれて距離を詰めてきます。グレネード投げは得意で、可能なら左右から挟撃してきたりもします。撃たれれば手近のカバーに退却。弱点としては、足が遅い。動きにバリエーションがなく反応を推測しやすい。プレイヤー同様ダメージに弱い。さらに戦闘中でも「きちんと」こちらを見失います。理不尽に位置を特定されることがまったくありません。おかげでかく乱し放題で、これが楽しい。
仁王立ちで応戦しない限り、序盤から積極的に戦っていくことも可能なバランスです。こちらを簡単に見失うせいもありますが、やっぱりヘルスの自動回復が大きいでしょう。過去作では回復アイテムを温存するため、倒せる敵でもあえてステルスしました。HRではその必要がありません。ただ完全なシューターとして遊ぶとなると、敵が軽/中/重の兵士3タイプと警備ロボット2タイプだけというのは問題あるかも。
Invisible Warのような「ステルスする理由が特にない」ゲームになっては困るということで、戦闘にはふたつの足かせがあります。ひとつは手に入る弾が少ないこと。敵から拾える弾は最大でもひとり10発程度、ショップの在庫も有限です。持ち運べる量も多くありません(インベントリーに余裕がない)。景気よくぶっ放していると、すぐ弾が尽きます。もうひとつは経験値の問題。銃で撃つより殴って気絶させる方が、得られる経験値は多くなります。
補助としてTPSが付いてくる変わったFPS。
最初こそ急に幽体離脱するような違和感を感じたものの、
ミッションを2、3個クリアする頃には、使い分けが楽しくなりました。
ステルス
初代と比べての話になります。
まずAIについて。HRのガードは近視で難聴ですが、これは初代もたいして変わらなかったでしょう。できることとしては、異変の調査やアラームを鳴らすといった基本に加え、決まった地点で振り返る、テーブルの下を覗く、段差を乗り越える、気絶した仲間を助け起こすなど。ドアの開閉やサイレンサー武器の着弾音に反応しますし、誰が音を出したかを区別します。敵の銃声で集まってきた警官が、敵だけを始末して去っていくことがありました(そうした三つ巴シチュエーションは少ないですが)。まあ当然とはいえ、初代よりずっと複雑で自然な動きをするようになっています。
角の向こうがノーリスクで見えるということは、ガードの足音に耳を澄ます必要もありません。
大きく違うのは、わかりやすさ。初代でのステルスプレイについて、HRのリードデザイナーは、「プレイヤーへのフィードバックが不十分で、どうすれば発見されないか、わかりづらすぎた」と分析していました。あらためて初代の序盤をプレイしてみると、とにかくわからない。角の向こうがどうなっているか、どこが安全か、いつガードが振り向くか、足音が聞こえる範囲は、この距離だと見えるのか。音と経験と勘を頼りにステルスしなければなりません。時間がかかり、不安感が強く、フラストレーションがたまります。
HRはわかりやすく、遊びやすくなりました。理由はカバーから角の向こうを安全に観察できる以外にも…
- 光と闇の概念がなくなった。
- 床の材質で足音の大小が変わらない。
- カバーを使うか、しゃがむか、歩けば足音が完全に消える。
- レーダーなどの補助が豊富。
- 音を出さずに一瞬でガードを気絶させる特殊格闘術、テイクダウン。
- ガードがこちらを発見したあと、なかなか走らない。すぐ追跡を諦める。
- オープンスペースの警戒を抜ける機会が少ない。いつでも手近にカバーがある。
- ガードのパトロールルートや監視カメラの配置に、すぐわかる穴が多い。
- 複数のルートを用意することにこだわったのが仇となり、重警戒ポイントを迂回しやすい(迂回ルートにもトラップやスパイダーボットのような障害が欲しかったです)。
暗がりではなく、カバーではりつける場所を探すステルスになりました。そのため初代やInvisible Warにはなかった昼間のマップが登場します。足音は走りとジャンプ以外すべて無音扱い。ガード配置にも意地悪さがなく、複数の視線が絡み合う場所は少なくなっています。「こっちまでパトロールに来たら困るなー」と思っていると、実際来ない。
かといって、簡単になりすぎてはいません。ガードの視距離はゲームが進むにつれ伸びていきます。カバーも万能ではなく、側面や背後からはしっかり見つかります。敵中で発見されれば一斉射撃を浴びてまず助かりません。レーダーが見づらかったり、テイクダウンにエネルギーの制約をかけたのも、お手軽にしすぎないためでしょう。
ステルスの楽しさは残されています。ただ、初代より面白くなったかというと……。私にとってスニーキングゲームは、リアル系FPSと同じような妄想ごっこ遊びです。いつか冒険小説で読んだシチュエーションに放り込まれ、抜け目ない衛兵(実はAI)を騙すのが楽しい。銃の発射そのものが快楽をともなう戦闘と違って、ステルスは忍耐しながらのろのろ動き回ってばかり。ゲーム体験としてはむしろ苦痛なわけですが、そこに妄想をプラスすると激しい快楽が得られます。初代にあった「リアルっぽい」フラストレーションの数々は、妄想を深める手助けをしてくれていました。そこをすべてではないにしろ削ったHRのステルスには、物足りなさが残ります。わがままですが、あともう少しだけ、ややこしくしてくれていれば。
テイクダウン。発動と同時に対象を別時空に連れ去る超格闘攻撃。
あまりに高速なため、獲物には表情を変える暇すらない。 テイクダウンについて。これはオーグメンテーションで可能となった超高速攻撃だそうで。そのため使用にエネルギーを消費し、発動中は周囲の時間が止まります。相手を気絶させるか殺すか選べるんですが、気絶版はまったく音を発しません(殺すと悲鳴が漏れる)。使い勝手がよく、アクションが派手で気持ちいいです。でも違和感も覚えました。超高速というわりには、のんびり殴り合っているようにしか見えません。音が出ないはずなのに派手な効果音も聞こえます。無音の高速攻撃だと納得できる見せ方にするか、あるいは、多少の音を出すとした方がよかったような。ヘビーソルジャーを正面から殴り倒せるのも便利すぎです。
強制戦闘
HRには5回、戦闘を強制されるポイントがあります。ボス戦です。ここはいろんなことを考えて作られたんだろうなと思います。
- ストーリーの都合とカットシーン作成の手間を考えれば、別の場所でキルフレーズを入力するといった分岐は用意できない。すべてのプレイヤーが同じ場所でボスと戦い、殺す必要がある。
- オーグメンテーションによって化け物になってしまった哀れな人間のサンプルを見せる。でも世界設定をぶち壊すような極端な能力はまずい。足は遅めにして、空を飛ぶとかはなし。使うのはクローキングやタイフーン程度にする。
- ステルス派のプレイヤーに、銃を存分に使う機会を与えたい。だが対弾オーグメンテーションはおろか、そもそも銃すら持っていない可能性がある。強すぎてはダメ。あっけなく倒せる極端な弱点も用意すべき。でないと詰んでしまうプレイヤーが出る。
- 戦闘派のプレイヤーには、普段より強い敵をあてがいたい。だから弱すぎてもダメ。
- 真正面から撃ち合うだけではDeus Exらしくない。ボスの行動パターンを見破ったり、環境をうまく使ったりする工夫を求める。しかし特定の方法でないと倒せないのもまずい。
みんな満たしながら面白くするのは、素人目にも難しそう。HRのボス戦を作ったのは、キャラクターAI部分を専門に請け負うという
GRIP社だそうです。GRIP代表は、「シューター大好き人間なので、Deus Exワールドのことは知らなかった。たくさんの武器とオーグメンテーションがあるから、バランスを取るのに苦労した。ボスの個性を活かすのも大変だった。冷静さと判断力を求めるようなボス戦を目指しました」と、たぶん
語っています。
苦労のあとは伺えるものの、中途半端になっている気がしました。人間としての限界を持つ兵士相手だったそこまでの現実感が、ボス戦でいきなり断ち切られます。単純なパターンを繰り返す固い敵を撃つばかりで、突然ありきたりなアクションゲームになってしまう。ボスの戦い方、弱点、マップの仕掛けのどれもインパクトに欠けます。それと「このゲームにも強制戦闘あるよ」とチュートリアルか何かで教えておいてくれれば、最初のボス戦であんなに困惑しなくてもすんだのに。
ソーシャルとハッキング
HRの4大セールスポイントは、戦闘とステルスに加えて、ソーシャルとハッキング。
ソーシャルは会話を通した情報収集です。単にいろんなNPCに話しかけるだけでなく、選択肢を選びながら重要人物を説得するシーンが何度か用意されています。画面は一人称視点となり、説得対象の表情や所作によって感情の動きが示されます。怒らせすぎず、ある程度理解してやりながら、痛いところをついていきます。正答パターンは1種類ではないようで、多少失敗しても持ち直せます。言葉による戦闘という感じ。非常に面白かったです。
ハッキングは、ドアロックやセキュリティシステムをいじったり、同僚のプライバシーを侵害するために行います。過去作でのハッキングは、必要な能力を取得しているか、あるいは使い捨てのマルチツールをどこで使うか(得られるものがそれに見合うか)の問題でした。HRではすべてのハッキングを、専用のミニゲームを通して、自分の手で行います。時間切れまでにクリアしないと警報が鳴り、途中切断を繰り返せば端末がアクセス不能に。もちろん作業中でもガードに見られます。面倒になってきたら、自動でやってくれる消費アイテムも用意されています(ただし予約特典DLCが必要)。
いいかロボコップ野郎、お前を作った奴に伝えろ!
予約特典DLCもいいけど、もう少しやり方を考えてください、ってな!
オーグメンテーションと経験値
スキルのなくなったHRでは、キャラクターの成長部分のほとんどを、オーグメンテーションが担うようになりました(わずかには武器アップグレードが)。数え間違っていなければ、21カテゴリーそれぞれに1~8個、全部で69種類。単なる性能アップや最初から習得済みのも含んでの話ですから、能力としての種類はずっと少なくなります。
代表的なものでは、クローキングや壁の透視、大ジャンプ、重いものを持ち上げるなど。リジェネレーションは標準装備となり、過去作にあったスパイドローンやロケット迎撃、死体吸血などの変り種は消え、かわりに心理分析、高所からの落下時に周囲を吹き飛ばす、ヒビの入った壁を叩き壊すなどが加わっています。ハッキングに関する能力も増えました。時代設定と矛盾しないようにしたかったらしく、突拍子もないスーパーパワーは登場しません。
先進的軍用オーグメンテーションの生けるショーケースとなったJensen。
でもエネルギーの制約があるので、無闇に連発はできません。
こうしたオーグメンテーションはすべて、あらかじめ主人公の体に仕込まれている設定です。希少なPraxis Kitを見つけるか、 5000点経験値を稼ぐごとに、眠っているオーグメンテーションをひとつその場でアンロックできます。経験値は以下の場合にもらえます。
- ミッション目標達成(500~2500、追加で細かいボーナス)
- ハッキング(25~125、うまくやればもっと)
- 隠されたルートをみつける(100~400)
- Hugh Darrowの書いた本を読む(200)
- Silver Tongue: 重要会話で相手を説得(1000)
Life Lesson: 説得できなかったら人生経験で(100) - 敵の無力化(10)
- ヘッドショットで無力化(+10)
- 殺害せず、気絶させた(+20)
- テイクダウンを使った(+20)
- 二人同時テイクダウン(+45) 気絶なら(10+20)x2+20+45=125 - ロボット破壊(45/250)
- Smooth Operator: アラームをならさずにミッションクリア(250)
Ghost: 敵と認識されずにミッションクリア(500) +Smoothの250
敵を単に射殺するのと、背後から気絶テイクダウンを狙うのとでは、40点もの差が出ます。この経験値システムが理にかなっているかですが、HRの遊び方は大雑把に3つじゃないでしょうか。
A 音もなく殲滅 ステルスを維持したまま、すべてのガードを気絶させる。全員動かなくなったら、行けるところに全部行き、目に付くPCやロックをひたすらハッキング。このスタイルがもっとも経験値を稼げます。ただ中盤をすぎると、見つかるたびにロードしない限りそれなりに達成困難でしょう。根気も必要ですし、大量の経験値で報いられてしかるべきということなのかも。
B トラブルは避ける 戦闘回避して前に進むためのステルス。警戒の厳しい部屋はできるだけ近づかない。ガードを迂回できるルートがあれば迷わず使う。なければ気絶とハッキングで道を作って先を急ぐ。このスタイルの場合、迂回した敵については「道をみつけた」ボーナスで、足りない分はミッションクリア時のステルス完遂ボーナスで埋め合わせられます。死体を漁る機会が減るため所持金が増えませんが、ショップで買えるものの多くが戦闘派向けなので、たいした問題にはなりません。
C アラームを鳴らせ ガードが見えたらまずヘッドショット。騒ぎが起きても関係ない。A、Bを狙って失敗したが、ロードしないで戦闘を始めた場合もこちら。この場合、戦闘そのものではたいして経験値を得られません。ただ、戦闘後のエリアは無人となっているので、ノーリスクで探索・ハッキングし放題。そこに時間を使えば、得るものはBに近づきます。
BとCの間でバランスを取ろうとしたのかなと。問題はステルスを第一選択にしたとき、 AをやらずにBをやる理由があまりないことでしょう。急ぐ必要も、探索で消費するアイテムもないので、その気になればすべて漁りつくせます。完全ステルスと完全探索の両立を難しくするようなプレッシャーがあればよかったんですが。気絶中のガードが一定時間たつと独力で起き上がるとか(怒りの表現以外に使い道のない殺害テイクダウンにも意味が出たはず)。
一応、「このゲームでは急げるときは急ぐべき」ことをプレイヤーに諭す仕掛けはあります。例えばというか、唯一の例かもしれませんが、冒頭、主人公は人質篭城事件を解決するために急遽呼び出されます。ここで「人質の命が危ないから早く現場に向かえ」という上司の指示を無視してSarif社内を探索していると、
工場長以外の人質が全員殺されます。その後現場に到着したとき、NPCからさんざん嫌味を言われることに。 またエンディングの台詞をみると、「暴力や利益を求める欲望をどう抑えるか、抑えないか、むしろ積極的に求めていくか、常にプレイヤーに選ばせる」というのが、ゲームを通してひとつのコンセプトになっているようではあります。アクションゲームなのにわざわざボス以外誰も殺さずクリア可能にしたのも、「ステルス派のやり込み用」というだけでなく、そこを強調したかったのかも。
話を経験値に戻せば、私はクリア時点で69個中27個ものオーグメンテーションが未解除でした。一応Bを狙ってはみましたが、それでも結構寄り道してサイドミッションはほとんど受けたのに。なので、クリアまでに大部分をアンロックしたいなら、Aを目指してプレイする必要があるでしょう。でもアンロックではなくゲームクリアが目的であれば、経験値を意識的に稼ぐ意味はほとんどありません。
初代の主人公は、ゲームスタート時、対テロエージェントにしては滑稽なほど弱く、スキルとオーグメンテーションの両面から強化必須でした。その点HRは、経験値の概念を切り捨てたInvisible WarやProject Snowblindに近くなっています。初期状態でもセキュリティのプロを名乗っておかしくないぐらいに戦えますし、そこからたいして成長しません。オーグメンテーションで強化できるのはせいぜい対弾性能、それと射撃が簡単になるぐらい。あとは行動オプションを広げる特殊能力がほとんどです。自分のプレイスタイルに必要なオーグメンテーションだけなら、ミッション完了報酬だけでも結構早い段階でアンロックできます。特定のオーグメンテーションがないと越えられない障害もありません。ひとつも取らずにクリアした方すらいるそうなので。
ボス戦以外では、ステルスと戦闘、どちらでも進めるようにしました。
私どもとしては不殺ステルスを推奨したいのでボーナスをあげますが、
強制は絶対にしません、どう遊んでもクリアはできます、という作り。
難易度
以上はすべて難易度ノーマルの感想です。私はアクションゲームが得意ではありませんが、ノーマルでは最後まで極端な難所はありませんでした。
Twitterかどこかで「初代をプレイした人は最初からハード(Give me Deus Ex)で」との開発者コメントを読んだ記憶があります。じゃあハードで何が変わるかというと、
昨年末のインタビューによれば、「AIの動きは変わらないが、敵の人数が増える。武器弾薬の入手にも影響がある。ハッキングも難しくなる」。でも完成したHRでは難易度を途中変更できますので、その後方針が変わってしまった可能性はあります。
ハードで工場長救出までを再プレイしました。敵の射撃の正確性、ヘルスとダメージが少し増加し、こちらのリジェネレーション速度は落ちているようです。ガードの能力と人数については、違いがわかりませんでした。いつか再プレイする時は、最初からハードを選んでやってみようと思います。
フォーラムには「そのハードですら簡単だ、もうひとつ上を用意してくれ」との投稿も結構ありました。どうしても難しいのがいいという場合、最終手段として、
デバッグメニューで自動回復を切る(普段はよくてもボス戦はすごいことに)、
難易度上昇MODを入れる(劇的な変更点はまだありません)、あるいは思い切ってカバーのバインドを外す(リーンがなかったInvisible Warそっくりになります、これはこれでいいかも)などの手があります。
ストーリー
2027年。サイボーグ技術が高度化を続けた果て、人間は神によって与えられたはずの肉体を、
神が与えなかった翼をつけるために捨てようとしていた。 シリーズで初めて、プレイ中にもフルCGのムービーが挿入されます。頻度や長さはそれほどでもなく、スキップも可能。ストーリーは、予想に反して、ドラマチックさより説得力に力を注いでいるようでした。自社施設襲撃で始まり(Invisible War)、重傷を負ってフルサイボーグになり(Project Snowblind)、その後は立て篭もり犯相手に人質救出(初代)。シリーズから設定だけでなく対立構造や展開も借用しつつ、独自のお話にまとめています。
好きなところ。
- 主人公の個人的復讐劇の背景に、オーグメンテーション技術のもたらす功罪が見え隠れする。本筋だけでなくサイドミッション、本やメール、端役NPCの台詞に至るまで、その基本路線からほとんど離れません。過去作には感じられなかった統一感があります。最後であの選択肢を聞く必然性も感じました。
- 情報集めにちゃんと見返りがあります。物語が大きく動くときには必ずと言っていいほど、事前にヒントが与えられます。ヒントは素通りしてもおかしくない場所に仕込まれています。たまたま盗み聞いた立ち話、たまたまハッキングしたPCのメールから手がかりを得て、推理通りの展開になったときなど、自分の手で謎を解明していくような喜びがありました。ヒントを素通りした場合、展開が唐突に感じられるという難点はありますが。
- 主人公はDentonやAlexよりも多少善人寄りの個性を持っています。でもカットシーン内ではあまり感情表現せず、普段の会話でも選択肢の結果としてしか自己主張しません。それがちょうどよかった。シリーズで一番身近に感じられました。
- 登場人物の背景や主人公とのかかわりは、さらりとしか描かれません。そのわりに印象に残った人物は結構います。声優の巧みな演技のおかげもあると思います。
- ゲームとしてボリュームがあるのがまた良かった。Invisible Warのストーリーも面白かったんですが、のめりこめなかったのには、ひとつにプレイ時間の短さがありました。架空の世界の抱える問題についてプレイヤーに悩ませたいなら、まずは世界に馴染む時間が必要だろうと思います。
- 意外なほど初代のあれこれが絡んできて感動しました。発売前に、初代のライターとも連携して骨格を組み立てたという話を聞いたときは半信半疑でしたが。いくら伝説的とはいえ10年前のゲーム、時代設定も違うわけですし、まるでつながらない話をつくってもよかったはずなのに。
残念なところ。
- 題材がぐっと絞られ、伏線を張ってプレイヤーを置いていかない。裏を返すと、オーグメンテーションの話ばかりが続いて飽きる、展開に大きな驚きがないともなります。フォーラムを読むと、実際そうした批判が見つかります。変に整理されていなかったからこそ、初代には謎めいた広がりがありました。それがHRにないのは確かだと思います。
- 基本的に細かい部分までよく考えられたストーリーだと思います。でもひとつだけ、はっきりひっかかった点があります。プロットホールとかではないんですが。2度目の上海のHarvesterアジトで、親父に仲間の死体について何も言えない。いわゆる正解ルートではなく、親父が犯人でもないですけれど、「仕事を受けるかわりに、あの死体には手をつけず丁重に埋葬しろ」ぐらい言わせて欲しかった。あのままじゃ不憫すぎる。親父が約束を守るかどうか別として、そこに触れないJensenが冷淡な男に見えます。もしかして、直前で見捨てている → プレイヤーはその人物にまったく関心がない → それに関するやり取りは不要、ということ? ただ単に、助けられるって気付かなかっただけなんですが……。
- 本編で説明されない部分について。まずひとつは予約特典DLCのために香港パートに開いた穴。これはなくても筋が通ったので、不満ありません。もうひとつは敵の傭兵達の背景。ゲームでは単なる悪役にとどまっていますが、それ以上の説明はHRのライターのひとりが書いた小説を読む必要があります。HRと同じ世界での別人の物語で、ゲームを補完説明するように書かれているそうです(リンク先にプロット要約あり)。
- ラストで目にするマシンと主人公の出自に関して、詳しい説明がありません。サイドミッションの台詞や本を手がかりに、推測はなんとかできます。でもどちらも重要な点ですから、はっきり語って欲しかった。特に出自の方。どこかで見落としがあったか、それとも将来のDLCなどのためにぼかしたんでしょうか。10月リ リース予定の「Missing Link」が、タイトル通りに不足を補ってくれるといいんですが。もしただ単に乗船中の出来事を描くだけだったらがっかり。
翼が融けたら、また作ればいい。
永遠の少年 David Sarif。 まとめ
開発チームは制作にとりかかる前に、初代Deus Exとその続編Invisible Warを2ヵ月間遊びこんだそうです。名作と呼ばれる初代はどこが評価されたか、Invisible Warはなぜ盛大なバッシングを浴びたか。それをよく研究したんだろうなあ、と思わせる出来でした。
初代と比べれば全体にわかりやすく、わがままが許され、失敗が後に残らない作り。ある程度の簡略化とスケールダウンは確かにあって、そのため没入感やリプレイ性はやや薄れていると思います。でも改変は、Invisible Warほど乱暴でなく、Project Snowblindほど冒涜的でもありません。ちゃんとDeus Exぽい。そして丁寧に作りこまれた世界と素敵な音楽が、些細な不満を吹き飛ばしてくれます。
発売時点でかなり長かったローディング時間が、最初のパッチでいきなり半分になったのもたまげました。Deus Exの名にふさわしい立派なシングルプレイ専用ゲームを作ってくれたEIDOSモントリオールと、変に口を出してひっかきまわさなかった(推測)スクエア・エニックスには感謝するばかりです。かなり売れているそうで、THI4Fのあとはこちらの続編も作られるのかな。次もマルチ関係には目もくれず、シングル専用で作って欲しいです。
最後の最後でアレですが、私はHRとよく比較されるMGS4やMass Effectシリーズをやったことがありません(MEは買ってあるので、死ぬまでには確実にやります)。HRチームの大半が関わったというSplinter Cell Convictionもやってません。ひどい。
それと予約特典DLCは、今では両方とも
Steamで買えるようになっています。