Realms of Arkania: Blade of Destiny HD を買ってしまった

え、もうお客さん来たの?
Shadowrun Returnsの記事で悪口を書きましたが、Realms of Arkania: Blade of Destiny は同名のドイツ製RPGのリメイクです。1992年に発売されたオリジナルは、つづくStar Trail(1994)、最終作となったRealms of Arkania III: Shadows over Riva(1996)とあわせてThe Northlands Trilogyと称され、3本セットがRealms of Arkania: Trilogyとして売られていました。
このTrilogyをeBayで新品未開封、おまけに安く入手できたときの私の喜びは相当でしたが、「いつか本気でやる」と死蔵している間にあっさりGoGで買えるようになり、今では精神的負債のひとつになっています。

ドイツの有名TRPG「The Dark Eye」をはじめてPCゲーム化したBlade of Destiny。
どんなゲームだったか。自作6人パーティでワールドマップを移動、町やダンジョンは主観視点で探索し、戦闘が発生すると碁盤マップ上へ移行するファンタジーRPG。つくったのはドイツのAttic、それを北米向けに翻訳販売したのがSir-Tech(余談ですが、ゲーム世界の名はAventuriaですから本来タイトルはRealms of Aventuriaとなるべきところ、響きが悪いということでSir-TechがArkaniaに改名したそうです。リメイクではゲーム内の呼称のみAventuriaに戻されています。またAtticで開発を率いたGuido Henkel氏はその後アメリカへ移住してPlanescape TormentやFallout 2にも関わり、現在はKickstarterでのThorvallaの失敗後、DeathfireなるRPGを開発中)。
背景世界とルールシステムはドイツ製のテーブルトークRPG、「The Dark Eye」をベースとしており、これは同じくドイツ製のCRPG、Drakensangシリーズとも共通します。ただ両シリーズは元にしているルールブックの版と、同じAventuria大陸でも舞台とする地方が異なります。また一本道を進むDrakensangに対してRealms of Arkaniaの進行はプレイヤー任せで、飢えや防寒対策、睡眠時間を気にする必要があるなど違いは多々。
オーストリアのCrafty StudiosがBlade of Destinyを忠実にリメイクすると聞き、今度こそ本気で取り組もうと予約しました。で、いざ触ってみると。

オープニングムービーが終わった後。
雑な僧侶が弛緩した表情を浮かべる冒頭シーンからすでに気分が落ち込んでいたのですが、その後目に入るすべてが作りかけ。明らかにプレイヤーを招待する準備が整っていません。
不親切かつバグだらけのキャラクターメイキング。美しいポートレイトと醜いキャラクターモデルのとんでもない剥離。2005年以前のゲームと聞けばしっくりくる町並みは異常な低フレームレートをたたき出し、内部IDむき出しのツールチップを横目に市場の屋台をクリックすると、姿の見えない店主がドイツ語をしゃべりだします。通りには髭と帽子だけが浮かんでいますし、子どもたちは後ろから見ると首が切断されている。その他の男たちは、すべてを諦めたようなポーズで幽鬼のようにたたずんでいます。なんだこれは……。

人間風オブジェクト。
名前もなく会話もできないのでNPCではありません。
宣伝されていたウリのひとつは、会話や状況説明を一人の声優がTRPGのゲームマスター風に吹きかえていることでした。が……。テキストと言っていることがずれているとか、his/herや人名など状況次第の部分を飛ばして読むので文章としておかしいとか、そんなことよりもえらく素人っぽい。英語版の声優までお金が回らなかったんでしょうか。すべてに音声があるわけではなく中途半端ですし、これはない方がむしろありがたいです。
惨状をあとにワールドマップで次の町への旅を始めると、一行が疲れ切ったらしくキャンプ画面になりました。それはいいとして、パーティメンバーしかいないはずの焚火の前に謎の親父が呆然と立ち尽くしています。いったい何者か。ここで何をしているのか。説明はありません。男はその後も野営のたびに現れました。

なんなんだあんたは・・・
野営システムはExpeditions: Conquistadorと若干似ています。戦士が見張りに立ち、狩人は水場と晩飯を探しに行き、魔女は薬草をつみ……薄手の服だと風邪をひいたりもするようで、ここら辺はいい感じです。もっともメニューの大半が機能していないのですが。
何度目かの野営ではモンスターが夜襲をかけてきました。敵は「草原の犬」と「巨大オスカブトムシ」。とはいえ外見上はオークとスケルトンにしか見えません。しかしこちらも、もはやその程度では驚きません。RPGにとって戦闘は大きな柱。他が未完成としても戦闘だけは形になっているはず。そこさえよくできていれば、ゲーム全体にも希望が出てきます。頼む……。

パーティよりプレイヤーが危ない。
実際には戦闘が一番ダメでした。昔、ゲーム学校の学生が課題でつくった作りかけゲームをひたすら遊ぶというわけのわからないことをしていた時期がありますが、そのときを思い出しました。
冒険者たちが攻撃やスペルを外しまくるのは低レベルだからにしても、あまりに理不尽なLOS判定、広げた寝袋が移動を阻んで身動き取れず、たまに攻撃が命中すると、新XCOMを意識したというクローズアップでどうしようもないアニメーションが表示されます。矢が命中する様をこんなに迫力なく描けるのか。そういえば効果音すら一切ありません。ときどきはWaitボタンを押して敵のターンを終わらせてやる必要もあります。ボードゲームをソロプレイする感覚です。
長引く戦いにうんざりしながら、なんとか最後に残ったスケルトン(巨大カブトムシ)を壁際に追い詰めました。するとそこで突然、スケルトンが腰をつきだすような奇妙なダンスを踊りはじめたのです。あっけにとられて見ていると、そのままゆっくりと回転しながら垂直上昇していきます。5分後、スケルトンはパーティメンバーを地上に残して画面から飛び去って行きました。私の希望とともに。

衝撃の幕切れ。空に消えたスケルトン。
TRPG版をつくっている会社が「今回のリメイクに我々は一切関与していない」ことをわざわざ表明したくなるのも無理はないなと。Steamフォーラムにはたくさんの呪いの言葉と一緒に、開発にあたったCrafty Studiosの関係者の謝罪投稿がありました。パブリッシャーが延期を認めてくれず、発売日にあわせてパッチを出す予定だったがそれもトラブルで間に合わなかった、ということでしょうか。しかしどう見ても、Day1パッチ程度で解決できたレベルではありません。数カ月単位で開発が遅れていたはず。なのにSteamで予約を取り始める際、アーリーアクセスとしなかったのは致命的失敗と思います。
Crafty Studiosの主要メンバーは2人しかいないようで、しかも今回が初のパッケージゲーム制作だったとか。経験も人手も足りないなかで、すべてをフル3Dで作り直す必要はあったのかなと。それで得られたものは少ない気がしますし、FPSのような操作がDOS版そのままのシステムやUIと噛みあっておらず、ちぐはぐな印象です。DOS版はイベントやNPCとの会話を一枚絵で処理していたはずですが、それがなくなったのも寂しい。これと比べるとExpeditionsは、必要最低限のグラフィックを要所で入る美しい一枚絵でうまく補っており、全然チープさを感じさせませんでした。
あまりのひどさに感動したため前置きが長くなりました。ここからが本題です。書いてきたように、もう救いようがないというのが発売直後の感想でしたが、その後Crafty Studiosは再び、今度はいい意味で驚かせてくれました。
発売日からほぼ連日アップデートが続いた結果、いまでは当初ほど攻撃的なゲームではなくなっています。クラッシュや低fps問題は目立たなくなり(stutteringは依然ひどいですが)、町の人間は若干美しくなり(続くパッチで修正されるまで全員2mぐらい浮遊していましたが)、髭の亡霊や後ろ姿が死んでいる子供たちは消え、キャンプには謎の親父が出没しなくなりました。おまけに店に主人がいるので、もう虚空を相手に世間話しなくていい。テンポがよくなった戦闘では、たまに音がします。

もはや異界ではなくなった最新v1.17での町。
この2週間での改善ぶりは本当に目覚ましいです。0.2が0.7ぐらいにはなりました。パッチのたびに全体の感触がまともになってきています。
努力は今後も続けられていくことになっています。Crafty Studiosが力尽きない限り、あるいはValveがSteamストアから追放してしまわない限り、数カ月先には0.7が1になっているかもしれません。今では買ってしまった自分を許せるようになったばかりか、ごくわずかに期待感も出てきました。
ただ、もし購入を迷っている方がおられれば、現時点ではまったくおすすめできません。パッチによって追加されたバグも多いようです。ようやく、かろうじてプレイ可能にはなりましたが、それだけです。独特のシステムを説明してくれるはずのマニュアルは未英訳で、チュートリアルはもちろんツールチップもろくにありません。DOS版かDrakensangのプレイ経験・マニュアルがないと意味不明だと思います。
非常に便利なパーティエディター
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