Shadowrun Returns 感想

シアトル、2054年。ヤクザも化け物も魔法使いも、肥溜めのなかじゃ似たようなもんさ。
ビルが高けりゃ影もでかい。そこを走り回るのが俺たちだ。
放置の言い訳はもう書きません。
Shadowrun Returns のキャンペーン、The Dead Man's Switchをクリアしました。聞いていたより長く、20時間はかかったと思います。ただ、そのほとんどは辞書片手に台詞を読んでいたかも。全体に占める会話パートの比重が極端に大きく、英語が達者な人、台詞を飛ばしまくる人はずっと早く終わるでしょう。今は中編小説を1冊読み終えた気分。
その読後感ですが、よかったです。ストーリーに賞賛が寄せられているのにも納得でした。丁寧に書かれた台詞の積み重ねで、ささやかな追跡劇がシアトルの命運を賭けた闘争へと拡大していきます。最終的に明らかとなる陰謀はおそらくTRPG版のソースブック"Bug City”へとつながるもの(ネタバレになりそうなので隠しました)。「またこういうのか」的な感じこそあれ、そこに至る語り口がうまいなあと。Shadowrun世界の魅力を紹介しつつ脇役の心情なども忘れずに描き、探偵小説風に手がかりが手がかりへとつながって、「先が見たい」思いを持続させるのに成功していると思います。ちょっと皮肉なエンディングも好きです。
10~20時間でクリアというとCRPGとしてはボリューム不足のようですが、これは欠点とまでは感じませんでした。シナリオ上で定められた戦闘以外では常にメインストーリーが進行しています。そのメインストーリーを(サブプロットや細かな分岐などで)さらに充実させてほしかった思いはあるものの、けっしてスカスカなゲームではありません。
昔から名前だけ知っていたShadowrun世界。ファンタジー+サイバーパンクという素っ頓狂な設定に抵抗を感じ、どうも興味が持てませんでした。なので私はTPRG版、SFC・MD版、何年か前に出たPC/Xbox版、どれも未プレイです。
ですが、いったん中に入ってみたら。ファイアボールのクールダウン中にピストルをぶっぱなすメイジ、斧とショットガンで暴れまわるドワーフ、それを電脳世界から援護するデッカー。戦闘風景がカラフルで楽しいだけでなく、仕事でミスを犯してパニックに陥る社畜エルフや、亜人差別に憤るトロールの好漢など。おなじみのファンタジー世界の住人たちが暗い社会で苦労しながら居場所をみつけ、それぞれの人生を送っています。上手なポートレイトのおかげもあって、意外と違和感がないし新鮮。新しいNPCに出会うのが楽しみでした。

ときどき出てくるやや場違いな日本語。
カリフォルニア独立戦争で日本とエルフが手を組んで戦った?という、
奇想天外な歴史設定があるようです。
ストーリーを抜きにすると、微妙な点もいくつか。
まず非常に驚いたのが、面クリア型であること。スタートからエンディングまでをつなぐ40弱のシーンがあって、シーン1から順にプレイしていきます。それぞれのシーンには余計な(探索を誘う)NPCやイベントがほとんど配置されておらず、過去にクリアしたシーンに戻ることも、進む先を選ぶこともまずできません。超リニア。
しかもシーン途中でのセーブ不可。後半に全滅するとシーンの最初に戻されて情報収集からやり直しという奇妙な仕様。このようにした理由は、失敗を取り返せない緊張感を重視したためと、途中セーブを可能にする予算がなかったとのことですが、タブレット版でメモリーの制約があったから?
いずれにしろ今回のシナリオでは、さいわいシーンひとつが20~30分程度なのと、おそらくこのシステムを前提に難易度が抑えられているのでまあ耐えられました。ですがやっぱり不便です。今後のパッチで終了時自動セーブあたりは追加してほしいです。
また全体の構造だけでなく、ひとつのシーンのなかでもリニアなゲームでした。会話で豊富に用意された選択肢は、どれを選んでもメインストーリーの流ればかりかその会話の展開すら変わらないことがほとんど。
たとえば、仕事を頼まれた時に:
A いいよ。いくら用意できる?
B 俺は大金でしか動かない。
C あなたは資産家だそうですね。
結局どれも同じことを言っています(ゲーム中の台詞ではありません)。BioWareのRPGでもよく見ますが、こういう選択は重要なものに混じって配置されている分には、性格に沿った言い回しができるので好きです。しかしこのゲームではこればっかり。どれを選んでも直後の応答が変わるだけということが読めてくると、会話の緊張感が損なわれてしまいます。基本となるストーリーがよいだけに、せめてシーン内での分岐がもっとあれば、さらにのめりこめたのになあと。
それと選択肢でもうひとつひっかかったのは、能力値や所持スキル・アイテム上選べない選択肢まで見えることです。このNPCはStrengthが5以上あれば恫喝で意のままにできるというのが、非力なキャラクターでプレイしてもわかります。ときにはそれがヒントになってしまったりして、ちょっと興ざめでした。

助っ人雇用画面。ピンクに光るメガネの女性は、
一見強そうですがさっぱり使えません。
シーンによっては、数十人の傭兵リストから最大3人を雇ってパーティを組めます。彼らはあくまで一時的な助っ人で、シーンクリアとともにいなくなります。おかげでいろいろな構成を試せるよい面もありますが、パーティメンバーへの愛着は沸きづらいです。連れ出した傭兵の状態は記録されず、経験を積むこともなければ、死なせても何事もなかったかのようにリストに復活。アイテムの受け渡しができないのも不便ですし、この辺はかなり大味ですね。
では、終始つきあうことになる主人公の成長システムが凝っているかというと。
●Body 体力、ダメージ減少
●Quickness 銃撃
Ranged Combat
+---Pistole
+---SMG
+---Shotgun
+---Rifle
Dodge
●Strength 格闘
Close Combat
+---Melee Weapons
+---Unarmed
Throwing Weapon グレネード関係
●Intelligence ハッキング・ドローン
Biotech メディキット使用時の回復量
Decking
+---ESP Control マトリックスで使える補助プログラム
Drone Control
+---Drone Combat
●Willpower 魔法
Spell Casting
Chi Casting Adeptが使う特殊魔法
●Charisma 交渉能力・精霊・召喚
Spirit Summoning
+---Spirit Control
Conjuring サポート魔法
一般的RPGでの能力値、スキル、アビリティなどをひとつにまとめたシステムです。6つの基本能力値を上げると、それに対応したサブ能力値を上げられるようになり、これらを伸ばすと戦闘でつかえるアビリティが増えます。すべてはクエスト達成時に得られるカルマで上昇させます。
やや不満なのは、どれを上げるか迷う余地が少ない点。ドワーフのストリートサムライでプレイしたところ、Intelligence、Willpower、Charismaについてはまったく上げる必要性を感じず、最後まで初期値のままでした。それと知覚力、隠密行動などシーフ系の能力が無視されているのも残念です。今回のシナリオでは戦闘と会話しかなかったのでよかったですが、シナリオエディターのことを考えれば、もう少し汎用性のあるシステムにすべきだったのではと思います。

サブ能力値を最低の1(左)から伸ばしていくと、順にアビリティが覚えられる。
どの技を習得するか選ぶことはできず、ここでもリニアです。
どの技を習得するか選ぶことはできず、ここでもリニアです。
戦闘システムは一応アクションポイント制をとっているものの、1AP=1マス移動ではなく新XCOMのような移動方式。中盤まで全キャラクターのAPが2(1ターン2回行動)ですし、オーバーウォッチ、カバーの扱いなんかも含め、基本はけっこう似ているかもしれません。武器のリロードはあっても弾薬は使い放題、魔法はマナなどを消費せず、クールダウン(間をあけずに連続使用するとヘルスにダメージ)があるのみです。
倒した敵が金やアイテムを落とすことは基本的にありません。経験値もないわけですから、あえて戦闘する理由が存在しないゲームです。今回のシナリオでは戦いを避けられる機会が滅多にありませんでしたが……ただ、ステルス要素も実装予定だったらしく、その名残なのか離れた敵がこちらに気づかずやりすごせることはありました。
バランス面では、難易度ノーマルでプレイしたところ、中盤もだいぶ進むまでかなり簡単に感じました。ゲームオーバーの不安を抱えながらの戦いになったのは数回のみ。歯応えを求める方は初回からハード以上でプレイした方がいいかもしれませんが、前述の通りセーブシステムの特殊性があるので、頻繁に全滅が起きるとそれはそれでやる気をそがれそう。今日リリースされたv1.0.2パッチで少し武器バランスに修正が入ったようです。

刀、銃、手榴弾、魔法、精霊召還、ドローン……多彩な攻撃手段。
ひとつひとつはあっさりした作りで、深みはありません。
あと銃の使い勝手が若干よすぎるような。

デッカーの独壇場となる電脳世界マトリックス。
基本的には通常の戦闘から色が変わっただけ。
ということで不満はあります。ありますが、それよりも会話と世界の魅力が上回っていました。
個人的に、Kickstarter発の作品に期待するのは、究極のCRPGではなく丁寧に作られた変わり種です。Shadowrun Returnsはその意味で十分期待に応えてくれました。興味深い背景を持ちつつもシナリオに絡んでこないNPCたちには、DLCでの再登場を期待しています(特にCoyote、Mr Kluwe、Dr Saraにぜひまた会いたい)。
最後に、このゲームをムキになって批判している人には、ぜひ数日前に発売されたRealms of Arkaniaを試していただきたいです。ちょっと気を抜くと、ターン制RPGはあそこまで落ちるという意味で。
これからプレイされる方へ:
- どんな場合でも、同じ場所に同じ状態で戻ってくることはできません。一見ハブのように見えても違います。必ずすべての用事を済ませてから先に進んでください。
- オブジェクトのなかには、複数回調べられるものもあります。
- ショップの品ぞろえは、シナリオの進行とともに3段階ぐらい変わります。
- 回復魔法は、直前の攻撃による傷だけ治せます。敵Aから15点、その後Bから1点ダメージを受けると、15点の方はもう治せません。
- 反応射撃(オーバーウォッチ)でも特殊能力を使えます。APを減らす攻撃をセットしておけば、その場で敵の行動を終わらせることも。
- 側面や背面からの攻撃には特にダメージボーナスなし。
- Trauma Kitを使うことで仲間を蘇生可能。
- 肉体改造でエッセンスが減ると魔法のクールダウンが伸びます。
- Lay Lineは上に立っている間、魔法が強化されます。
- シャーマンはマップ上にときどき存在するどくろマークをクリックすることで、地縛霊(?)を召還できます。
- 任務中に傭兵を死なせてもクリアさえできれば問題ありません。同じように仲間に与えた&拾わせたアイテムは全部消えます。
- パーティにデッカースキルを持つ者がいなければ入れない部屋、得られない情報がたまにあります。なくても救済手段が用意されているので進行上は問題ないはず。
- ハッキングできるターミナルは、デッカースキルを持つキャラクターを選択しているときしか表示されません。
- drek=shitに相当?、run=仕事、geek=殺す?、so-ka=そうか、Tir=エルフの国?、Lone Star=警察、UCAS=米加連合、six world=この世界、Wiz=いいね!
エディターとユーザーシナリオ

サイバーパンクRPGツクール2013。
公式シナリオを開いた状態
Neverwinter Nightsのようにシナリオエディターが付属しており、作成したシナリオをSteam Workshopを通して手軽に配布できます。エディターにどのぐらい制約があるのかわかりませんが、ちょっと触った限りでは本格的なものに見えます。アイデア次第で様々つくれそう。私に英語力と根気と才能さえあれば……。
ユーザーシナリオ開始時のオプション:
・新規キャラクター作成
・セーブからキャラクターをインポート(成長度と装備のみ)
・シナリオ専用キャラをつかう
つまり、ひとりのキャラクターで様々なシナリオを遊べます。成長しきったあとで新米向けシナリオを遊びたいときは、セーブデータの巻き戻し機能でカルマが低い状態のセーブをつくり、そこからキャラクターをインポートします。
エディターのガイド
TRPG版をもとに大型キャンペーンをつくる計画
スーパーファミコン版のリメイク計画
Shadowrun Returns Anthologyについて

通常版にプラス$15で買えるShadowrun Returns Deluxeには、サントラとShadowrun AnthologyというPDFファイルがついてきます。ずいぶん値段が違いますが、はたしてそれに見合う内容なのか。
全194ページ、フルカラー。そのうち120ページほどは、Shadowrunに関与してきたライターたちによる16篇のショートストーリーです。コミックではなく小説。思ったより文字量があって、なかにはゲーム中語られない重要NPCの過去についてのエピソードもありました。まあ全然ちゃんと読めてはいません。残りのページはコンセプトアートとKickstarterでのバッカーへの感謝に捧げられています。
オマケとしてはよくできていますが、紙ではなくPDFですし、1500円の価値があったかというと微妙です。サントラはゲーム内で聞けば十分かも。Deluxe版がセールでぐっと安くなったら、そして本編に加えてさらに英語を読むことに抵抗がない方なら、おすすめかと思いました。