金を出す人、作る人
10/30 追記: 新たにコミュニティ・マネージャーを置くことにしたそうです。引き受けたのは、テレグラフでゲーム関係の記事を書くライターであり、メンバーの飲み仲間でもあったという20歳のEmily Richardson氏(StinkyTiger)。今後は彼女にフォーラムやメールでの対応を手伝ってもらい、さらにブログの更新もまかせるとのこと。
いま一番完成を心待ちにしている(にもかかわらずカテゴリを作ったまま4ヵ月も放置してしまった)Project Zomboidについて。 ゾンビ・アポカリプスを扱うゲームは古今東西、開発中も含めてたくさんあると思いますが、そのなかでもPZには激しく琴線をくすぐられます。MODサポートにも積極的なサンドボックス型ゾンビサバイバルRPG。きちんと完成すれば、ロメロの『ゾンビ』のゲーム化として屈指の一作になりそう。
デモが公開されており、£4.99でアルファ版を遊べます。Desuraでも販売中。内容の話はまたの機会に、以下はIndie Stone(その開発チーム)が大変な時期を迎えているという話です。
今月15日、開発チームのコアとなるふたり、lemmy(Chris Simpson)とbinky(Andy Hodgetts) の暮らすアパートに泥棒が入りました。盗まれたものの総額は$5000近く。なかには開発中のソースコードがつまったノートPC2台も含まれるとのこと。手元に残ったバックアップの日付はかなり古いそうで、 少なくとも完成間近だった新バージョンの公開は不可能となりました。証拠として事件番号つきの被害届受理証明(?)がアップされています。
事件のショックから取り乱し、泥酔していたというlemmy氏は、 さらに悪いことにいきなりtwitterに書き込みを始めます。みんな失ってしまった、もうだめかもしれないという、相当ネガティブなトーンだったようです。もしかしたらなぐさめの言葉が欲しかったのかもしれません。でも返ってきたのは、それだけではありませんでした。
最近の開発チームとファンの関係は、良好とは言えなかったと思います。ファンの一部は約束されたはずのアップデートが遅れ続けることに苛立ちをつのらせ、開発チームも、返金要求した人をブログ上で大人気なく非難したり。 きなくさい匂いが漂っていました。そこにソースコード喪失という衝撃ニュースです。同情する人がいる一方で、激怒する人、詐欺を疑いだす人も出現。オフサイトバックアップをロクに取っていなかったことが明らかになると、lemmy氏への一斉攻撃が始まりました。
「そんなんで商売がつとまるか、プログラマー失格だ」。それをlemmy氏が口汚くやり返し、さらにbinky氏までも参戦し……。 かくしてインディーズゲーム開発者の口から「全員fuck youじゃ。ゲーム作りなんかくだらない。こんな儲からない仕事もう辞めてやる」 といった身も蓋もない発言が飛び出すことに。その後謝罪はあったものの、怒りの収まらないファンのなかには、全部狂言じゃないか、lemmyとbinkyは精神を病んだひとりの男の別人格じゃないか、などと憶測する人まで出てくる始末。
ユーザーと開発者の距離の近さは、インディーズゲームの魅力と同時に、厄介なところでもあるそうです。少人数でゲームを作る者にとって、ユーザーの批判に耳を傾けることがいかに苦痛であり、なんの役にも立たず、開発意欲を削ぐか。インディーズRPGの大御所Jeff Vogel氏が、「クリエイターがフォーラムを読むべきでない3つの理由」で書いています。遊ぶ側としては悲しい話ですけれど。そう言う氏自身もこの間、Avadonの評価を巡ってRPG Codexと戦争していました(Dragon Ageの大ファンだと公言しているVogel氏が、最近のBioWareの作風に影響されてカジュアル層に媚びを売り始めたと批判され、反論して喧嘩に)。
このただでさえ難しいユーザーとのつきあいを、PZが採用するMineCraft式のビジネスモデル(作りかけを売る)は、さらに難しくしてしまうのかもしれません。金を出した側は、応援するというより、すでにお客様であるという意識が強くなります。金を受け取る方にはゲームを完成させる責務に加えて、サポート、コミュニティの意見を聞く、頻繁なアップデートと経過報告という重圧がのしかかります。それもかなり長い期間。勝手な方針転換は許されず、遅れれば罵られ、頓挫すればチーム解散以外にありません。きっと大変な芸当でしょう。
今回Indie Stoneはその過程でつまづいてしまいました。
lemmy氏は、twitterでの醜態と、オフサイトバックアップを稀にしか取っていなかったことを謝罪しています。しかし自分が怒り出してしまった理由は理解して欲しいとも書いています。何ヶ月もの苦労の成果と高価なPCを突然奪われ、酔っ払い、母親には電話口で泣かれ、精神的に追い詰められていたと。「これからは裏方に徹して、表には顏を出さない。自分はゲーム作りが好きなだけで、非難の大合唱に耐えるスキルは持っていない。 実は過去数ヵ月、メールを開くのが怖くて仕方なかった。今回の件でさらに難しくなるだろう。これ以上はムリだ。みんなは嫌かもしれないけれど、PZの開発には今後も力を貸していくつもり。応援してくれる人がいる以上放り出すわけにはいかない。今となってはそれだけが別の仕事を探さない理由」。宣言どおり、ブログとTwitterアカウントは消えてしまったようです。
binky氏の方は、一口に独立系スタジオといってもいろいろで、Indie Stoneは会社とは名ばかりの集団であり、 その目的はプロフェッショナルな商売ではなく理想のゲームを作ることだと書いています。「俺達の個人的な思いを知りたくないって? じゃあそもそもtwitterを読むな。金をくれてやった開発者が侮辱に侮辱を返したのが不満だって? じゃあそういう奴に金を払うな。シンプルな話だ」。
みんなが望むゲームを作ろうと思ってるんだ、だからその間の生活費を頼むよ、つらいことがあったら共感してくれたっていいじゃないか、それがインディーズだろ、という友達感覚のふたり。俺達は金を払った、だからあんた達はプロ意識をもって仕事をしてくれ、インディを言い訳にするな、というユーザー。双方の意識の差が、不幸な事件をきっかけに露呈してしまったかたちです。
IndieStoneがふたりだけのチームだったら、たぶんここで終わっていたでしょう。幸いメンバーは他にもいて、そのうち最近加わったWill Porterという人が、新たにまとめ役となっているようです。この人は元PC Gamer誌のライターで、PZのテキスト部分を担当しています。彼によれば「PZは一回り強くなって戻ってくる」。残ったバックアップは当初思ったほど古いものではなく、十分に立ち直れる、できるだけ早く次のアップデートを行えるようがんばるとのこと。
PZに惚れてしまった者からすると、今回Indie Stoneに浴びせられた批判にはまったく共感できません。インディーズゲームの面白さのひとつは、少数の人間が個性をむき出しにして作るところだと思います。その個性には欠点もあるはず。なにしろ人間なんだし。それが見えるたびにいちいち非難していたんじゃ、ただ作者を傷つけ、開発スピードを落とし、最悪プロジェクトを失敗に導くだけでしょう。わずかなお金で楽しませてくれる人に失礼とかいう以前に、不毛で無益です。アマチュアっぽいチームを潰していけば、結局あらゆる面で隙のない大手のゲームを遊ぶ以外なくなる気がします。
チームはいつかのインタビューで、Project Zomboidというタイトルに特に意味はないんだと答えていたはずですが、ここから蘇ったら、まさにふさわしいタイトルになるでしょう。ゲーム作りを嫌にならないでください。
これまでのProject Zomboid
数年前、 IndieStoneとして活動を始めたイギリス人のlemmyとbinkyは、 企業を離れた開放感に浸りながら、まず腕試しにフリーゲームをいくつか作ります。水着美女が胸をさかんに揺らしてビーチボールするゲーム(動画)。あとラブクラフトの小説から題材を得たパズルゲーム。これらが好評を持って受け入れられたことに満足すると、Xboxで売ることを想定しながら、PAWSの開発に取り掛かりました。しかし1年後、マイクロソフトに取り扱いを断られてあえなく計画は頓挫。いきなり収入の目処が立たなくってしまいます。
減っていく貯金。払えない家賃。そこで彼らはMineCraftの成功に目を付けます。ずっと温めてきたゾンビゲームの構想がありました。それを急いである程度の形にして世に見せよう。そして制作資金を集めながら作っていこう。これがProject Zomboidになります。平凡なゾンビ狩りゲームとはまったく違うところを目指すPZは、デビュー以降あちこちで評判を呼びます。アルファデモが公開されるとますます注目が集まりました。
ですがトラブルも相次ぎます。どういう順番か覚えていませんが。オフィス近くで爆発事件が起きて仕事ができなくなったり。 PaypalとGoogleチェックアウトのアカウントが凍結され、再び資金難に陥りかけたり。理由は「未完成の商品を売ってはいけない」から、ならばと苦肉の策でPZを別ゲームのオマケだと言い張ったり。テスターの裏切りでテスト版が4chanに流出したり。 不正ダウンロードツールによるサーバー負荷を避けるため、ブラウザ版の公開停止を余儀なくされたり。
妙に不手際や問題の続いたことが、チームへの不信を醸成してしまったのかもしれません。トラブルがひと段落してしばらくすると、今度はアップデートが遅い、逃げたのかという非難が一部で始まりました。そして今回の事件に。
いま一番完成を心待ちにしている(にもかかわらずカテゴリを作ったまま4ヵ月も放置してしまった)Project Zomboidについて。 ゾンビ・アポカリプスを扱うゲームは古今東西、開発中も含めてたくさんあると思いますが、そのなかでもPZには激しく琴線をくすぐられます。MODサポートにも積極的なサンドボックス型ゾンビサバイバルRPG。きちんと完成すれば、ロメロの『ゾンビ』のゲーム化として屈指の一作になりそう。
デモが公開されており、£4.99でアルファ版を遊べます。Desuraでも販売中。内容の話はまたの機会に、以下はIndie Stone(その開発チーム)が大変な時期を迎えているという話です。
今月15日、開発チームのコアとなるふたり、lemmy(Chris Simpson)とbinky(Andy Hodgetts) の暮らすアパートに泥棒が入りました。盗まれたものの総額は$5000近く。なかには開発中のソースコードがつまったノートPC2台も含まれるとのこと。手元に残ったバックアップの日付はかなり古いそうで、 少なくとも完成間近だった新バージョンの公開は不可能となりました。証拠として事件番号つきの被害届受理証明(?)がアップされています。
事件のショックから取り乱し、泥酔していたというlemmy氏は、 さらに悪いことにいきなりtwitterに書き込みを始めます。みんな失ってしまった、もうだめかもしれないという、相当ネガティブなトーンだったようです。もしかしたらなぐさめの言葉が欲しかったのかもしれません。でも返ってきたのは、それだけではありませんでした。
最近の開発チームとファンの関係は、良好とは言えなかったと思います。ファンの一部は約束されたはずのアップデートが遅れ続けることに苛立ちをつのらせ、開発チームも、返金要求した人をブログ上で大人気なく非難したり。 きなくさい匂いが漂っていました。そこにソースコード喪失という衝撃ニュースです。同情する人がいる一方で、激怒する人、詐欺を疑いだす人も出現。オフサイトバックアップをロクに取っていなかったことが明らかになると、lemmy氏への一斉攻撃が始まりました。
「そんなんで商売がつとまるか、プログラマー失格だ」。それをlemmy氏が口汚くやり返し、さらにbinky氏までも参戦し……。 かくしてインディーズゲーム開発者の口から「全員fuck youじゃ。ゲーム作りなんかくだらない。こんな儲からない仕事もう辞めてやる」 といった身も蓋もない発言が飛び出すことに。その後謝罪はあったものの、怒りの収まらないファンのなかには、全部狂言じゃないか、lemmyとbinkyは精神を病んだひとりの男の別人格じゃないか、などと憶測する人まで出てくる始末。

ユーザーと開発者の距離の近さは、インディーズゲームの魅力と同時に、厄介なところでもあるそうです。少人数でゲームを作る者にとって、ユーザーの批判に耳を傾けることがいかに苦痛であり、なんの役にも立たず、開発意欲を削ぐか。インディーズRPGの大御所Jeff Vogel氏が、「クリエイターがフォーラムを読むべきでない3つの理由」で書いています。遊ぶ側としては悲しい話ですけれど。そう言う氏自身もこの間、Avadonの評価を巡ってRPG Codexと戦争していました(Dragon Ageの大ファンだと公言しているVogel氏が、最近のBioWareの作風に影響されてカジュアル層に媚びを売り始めたと批判され、反論して喧嘩に)。
このただでさえ難しいユーザーとのつきあいを、PZが採用するMineCraft式のビジネスモデル(作りかけを売る)は、さらに難しくしてしまうのかもしれません。金を出した側は、応援するというより、すでにお客様であるという意識が強くなります。金を受け取る方にはゲームを完成させる責務に加えて、サポート、コミュニティの意見を聞く、頻繁なアップデートと経過報告という重圧がのしかかります。それもかなり長い期間。勝手な方針転換は許されず、遅れれば罵られ、頓挫すればチーム解散以外にありません。きっと大変な芸当でしょう。
今回Indie Stoneはその過程でつまづいてしまいました。
lemmy氏は、twitterでの醜態と、オフサイトバックアップを稀にしか取っていなかったことを謝罪しています。しかし自分が怒り出してしまった理由は理解して欲しいとも書いています。何ヶ月もの苦労の成果と高価なPCを突然奪われ、酔っ払い、母親には電話口で泣かれ、精神的に追い詰められていたと。「これからは裏方に徹して、表には顏を出さない。自分はゲーム作りが好きなだけで、非難の大合唱に耐えるスキルは持っていない。 実は過去数ヵ月、メールを開くのが怖くて仕方なかった。今回の件でさらに難しくなるだろう。これ以上はムリだ。みんなは嫌かもしれないけれど、PZの開発には今後も力を貸していくつもり。応援してくれる人がいる以上放り出すわけにはいかない。今となってはそれだけが別の仕事を探さない理由」。宣言どおり、ブログとTwitterアカウントは消えてしまったようです。
binky氏の方は、一口に独立系スタジオといってもいろいろで、Indie Stoneは会社とは名ばかりの集団であり、 その目的はプロフェッショナルな商売ではなく理想のゲームを作ることだと書いています。「俺達の個人的な思いを知りたくないって? じゃあそもそもtwitterを読むな。金をくれてやった開発者が侮辱に侮辱を返したのが不満だって? じゃあそういう奴に金を払うな。シンプルな話だ」。
みんなが望むゲームを作ろうと思ってるんだ、だからその間の生活費を頼むよ、つらいことがあったら共感してくれたっていいじゃないか、それがインディーズだろ、という友達感覚のふたり。俺達は金を払った、だからあんた達はプロ意識をもって仕事をしてくれ、インディを言い訳にするな、というユーザー。双方の意識の差が、不幸な事件をきっかけに露呈してしまったかたちです。
IndieStoneがふたりだけのチームだったら、たぶんここで終わっていたでしょう。幸いメンバーは他にもいて、そのうち最近加わったWill Porterという人が、新たにまとめ役となっているようです。この人は元PC Gamer誌のライターで、PZのテキスト部分を担当しています。彼によれば「PZは一回り強くなって戻ってくる」。残ったバックアップは当初思ったほど古いものではなく、十分に立ち直れる、できるだけ早く次のアップデートを行えるようがんばるとのこと。
PZに惚れてしまった者からすると、今回Indie Stoneに浴びせられた批判にはまったく共感できません。インディーズゲームの面白さのひとつは、少数の人間が個性をむき出しにして作るところだと思います。その個性には欠点もあるはず。なにしろ人間なんだし。それが見えるたびにいちいち非難していたんじゃ、ただ作者を傷つけ、開発スピードを落とし、最悪プロジェクトを失敗に導くだけでしょう。わずかなお金で楽しませてくれる人に失礼とかいう以前に、不毛で無益です。アマチュアっぽいチームを潰していけば、結局あらゆる面で隙のない大手のゲームを遊ぶ以外なくなる気がします。
チームはいつかのインタビューで、Project Zomboidというタイトルに特に意味はないんだと答えていたはずですが、ここから蘇ったら、まさにふさわしいタイトルになるでしょう。ゲーム作りを嫌にならないでください。
これまでのProject Zomboid
数年前、 IndieStoneとして活動を始めたイギリス人のlemmyとbinkyは、 企業を離れた開放感に浸りながら、まず腕試しにフリーゲームをいくつか作ります。水着美女が胸をさかんに揺らしてビーチボールするゲーム(動画)。あとラブクラフトの小説から題材を得たパズルゲーム。これらが好評を持って受け入れられたことに満足すると、Xboxで売ることを想定しながら、PAWSの開発に取り掛かりました。しかし1年後、マイクロソフトに取り扱いを断られてあえなく計画は頓挫。いきなり収入の目処が立たなくってしまいます。
減っていく貯金。払えない家賃。そこで彼らはMineCraftの成功に目を付けます。ずっと温めてきたゾンビゲームの構想がありました。それを急いである程度の形にして世に見せよう。そして制作資金を集めながら作っていこう。これがProject Zomboidになります。平凡なゾンビ狩りゲームとはまったく違うところを目指すPZは、デビュー以降あちこちで評判を呼びます。アルファデモが公開されるとますます注目が集まりました。
ですがトラブルも相次ぎます。どういう順番か覚えていませんが。オフィス近くで爆発事件が起きて仕事ができなくなったり。 PaypalとGoogleチェックアウトのアカウントが凍結され、再び資金難に陥りかけたり。理由は「未完成の商品を売ってはいけない」から、ならばと苦肉の策でPZを別ゲームのオマケだと言い張ったり。テスターの裏切りでテスト版が4chanに流出したり。 不正ダウンロードツールによるサーバー負荷を避けるため、ブラウザ版の公開停止を余儀なくされたり。
妙に不手際や問題の続いたことが、チームへの不信を醸成してしまったのかもしれません。トラブルがひと段落してしばらくすると、今度はアップデートが遅い、逃げたのかという非難が一部で始まりました。そして今回の事件に。
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